謎のカギを握るローマ字の成り立ち

なぜ、「tsu」ではなく「tu」なのか。この謎を解き明かすためには、ローマ字の成り立ちを知る必要がある。

ローマ字には「ヘボン式」や「日本式」といった表記法が存在する。そもそもローマ字は、ローマ人が自国のラテン語を表記するために考案したものであるが、1800年代後半にこのローマ字を日本に広める活動が見られるようになった。その中で生まれたのが英語の発音に基づいたヘボン式であり、“ツ”や“シ”は「tsu」「shi」と表された。ヘボンとは、先の普及活動を行っていた団体の顧問をしていた人物の名前である。

次に日本式であるが、ヘボン式に対抗して日本の知識人が考案した表記法をこう呼ぶ。日本人によって日本語の五十音に基づいて作られたため、“ツ”や“シ”は「tu」「si」と表された。ちなみに日本式は、1937年に内閣訓令によって、ヘボン式と日本式の統一が図られたことで、「訓令式(くんれいしき)」という名称で呼ばれるようになっていく。

ヘボン式と日本式の違い(一例)
ヘボン式 日本式
tsu tu
shi si
chi ti
じゃ ja zya

参考文献:茅島篤 編著(2012)
『日本語表記の新地平』くろしお出版

創業時から使われていた日本式の名残

国産化第一号のマイクロメータに刻印された「MITUTOYO」

話をコーポレートロゴに戻そう。ミツトヨがマイクロメータの国産化に成功したのは1936年のこと。製品には社名を日本式で表した「mitutoyo」の刻印が見られる。当時、日本で日本式を支持する動きが活発化していたことの影響が大きかったと推察される。

1945年の終戦後、日本でもヘボン式が多く見られるようになるが、今なおミツトヨの“ツ”が、「tsu」ではなく「tu」であるのは、こうした時代の名残なのである。

ミツトヨを象徴する瓢箪マーク

よい機会なので、コーポレートロゴの変遷についても少し触れておきたい。

ミツトヨが初めて商標として登録したのは、瓢箪をモチーフとした和デザインのマークであった。1936年、三豊製作所の時代に考案されたものである。三豊の「豊」から豊臣秀吉が連想されるとおり、秀吉の馬印である千成瓢箪がモチーフになっている。

1987年に現在のコーポレートロゴが唯一の商標として決定されるまでは、この瓢箪マーク(正確には3つの瓢箪を輪で囲んだマーク)が併記されており、現在は社紋として社屋や社旗等に使用されている。

コーポレートロゴの変遷
1936 1936年のロゴ
1938 1938年のロゴ
1960 1960年のロゴ
1975 1975年のロゴ
1987 1987年のロゴ

「M」と「y」のラインは高い技術水準の証

最後にもうひとつ、コーポレートロゴに関するトリビアを紹介しておこう。

「Mitutoyo」の「M」と「y」に、右上への上昇ラインがデザインされていることがお分かりいただけるだろうか。コーポレートロゴにシャープなアクセントを作り出しているこのラインは、精密測定機器メーカーとしての精度の高さと技術水準を表現したものなのだ。